ランドサット画像で白居易の愛した香炉峰を探す


今の江西省、九江市は、長江(揚子江)沿岸の港湾都市です。

ここから見渡せる廬山(ろざん)は、世界遺産に指定されました。 って言っても、自然が遺産指定されたのではなく、歴史の舞台になったことが指定対象らしいですけど。

白楽天は唐の元和十(815)年、四十四歳の時に江州(九江郡)の司馬に左遷されたのですが、その江州には廬山があり、そして、彼が愛した香炉峰 がありました。

有名な「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き、香炉峰の雪は簾を撥げて看る」ってヤツですな。
那波本で示すと、『白氏文集』卷十六です。

0975 香鑪峯下、新卜山居、草堂初成、偶題東壁五首
五架三間新草堂、石階堦桂柱竹編牆。
南簷納日冬天暖、北戸迎風夏月凉。
灑砌飛泉纔有點、拂䆫斜竹不成行。
來春更葺東廂屋、紙閤蘆簾着孟光。

0976 重題。
喜入山林初息影、厭趨朝市久勞生。
早年薄有煙霞志、歲晩深諳世俗情。
已許虎溪雲裏卧、不爭龍尾道前行。
從兹耳界應清浄、免見啾啾毀譽聲。

0977
長松樹下小溪頭、斑鹿胎巾白布裘。
藥圃茶園爲産業、野麋林鶴是交遊。
雲生澗戸衣裳潤、嵐隱山厨火燭幽。
最愛一泉新引得、清冷屈曲遶階流。

0978
日高睡足猶慵起、小閤重衾不怕寒。
遺愛寺鐘欹枕聽、香鑪峯雪撥簾看。
匡廬便是逃名地、司馬仍爲送老官。
心泰身寧是歸處、故郷可獨在長安。

0979
宦途自此心長別、世事從今口不言。
豈止形骸同土木、兼將壽夭任乾坤。
胷中壯氣猶須遣、身外浮榮何足論。
還有一條遺恨事、高家門館未酬恩。

那波本だと金偏で「香鑪峯」って書くんですね。

この、江州時代には「元九に與ふる書」を書いてて悲憤慷慨したり、名作とされる「琵琶行」なんかも書かれています。そういう状況で、ゴロゴロしながらだらけている云々という詩を作るわけです。

元々が暢気な性格だったのか、気を紛らわせるための強がりか。
はたまた復権して都へ戻るためとか、都の人に忘れられないためとかの理由で、意気消沈するヒマもなく良い詩を作って、流布させることに一生懸命だったのか・・・。
その辺の事情は、色々考えさせられます。

不惑の年齢と言っても、それは孔子センセイほどの君子であればこそ。
白居易も悩んだだろうなぁ・・・とか。

白居易の作品の面白く、そしてまた恐ろしいところは、読者が、自分の置かれている境遇に引き寄せて読めてしまう、ということかなぁと思います。

さて、話を戻して「遺愛寺の鐘は枕を欹てて聴き、香炉峰の雪は簾を撥げて看る」の件。
この頃の枕は陶製だったはずですから、「欹(そばた)てて」ってのは、平べったくない方を上下にして、そこに頭なり、顎なりをだらけて乗っけて聞いた、ってことなんでしょう。

「簾を撥げて」ってのも、清少納言のようにわざわざ起き上がって簾を上げに行ったのではなく、寝そべったまま、棒きれか足か何かで、ウンショと持ち上げて見たってことなんでしょう。

「撥げ」を文字通りに取ろうとして、エイヤッ!と跳ね上げる行為を何度も繰り返した、と読み取るのは、だらけた様子の描写からすると、ちょっと不自然な感じがします。

ところで、香炉峰ってどこ?

香炉峰って二つあるんですよね。北の香炉峰と南の香炉峰。

で、白居易が詠んでいるのは、北の香炉峰です。

ということで、人工衛星ランドサット(LANDSAT)のTM(Thematic Mapper)センサによる衛星画像を加工してみました。

ランドサット画像は、University of MarylandのInstitute for Advanced Computer Studiesに設置されているGlobal Land Cover Facilityのサイトから入手できます。

今回用いたのは1999-12-10撮影のLandsat7、ETM+です。

東経121度:北緯39度の画像と、東経121度:北緯40度の画像を接合しました。

ランドサットのセンサは、以下の周波数毎に分解して撮影しています。

バンド

 波長(μm)

 波長帯域

分解能(m)

1

 0.45-0.52

 青~緑(可視光)

 30

2

 0.52 - 0.60

 緑(可視光)

 30

3

 0.63 - 0.69

 赤(可視光)

 30

4

 0.76 - 0.90

 近赤外

 30

5

 1.55 - 1.75

 短波長赤外

 30

6

 10.40 - 12.50

 熱赤外

 120

7

 2.08 - 2.35

 短波長赤外

 30

分解能が30mってのは、つまり、30m四方のビルがあれば、それが画面上の1ドット四方のマス目に相当する、ということです。精度はあんまり宜しくないのが残念。

軍事用の偵察衛星ならば、数十センチ単位の高解像度のはずですけどね。

上記の内、トゥルーカラー設定は、通常、バンド3をR(赤)に、バンド2をG(緑)に、バンド1をB(青)に割り当てします。

トゥルーカラー合成の上、トーンバランスの調整を行い、更に地名の比定を試みた画像が以下のものです。

比定には、下定雅弘氏『白楽天の愉悦』(勉誠出版 2006/04)に転載されていた周鑾書氏の『廬山史話』収載の図を参考しましたが、やっぱりよくわからん。

画像をクリックして拡大表示すると、小さい文字も読めるはずです。

但し、画像ファイルのサイズは2.5~3.3MBと、とても大きいので注意!

RGB=542の割り当てで合成し、ナチュラルカラーにしたものは、以下のようになります。

植物の植生がよくわかります。

RGB=321の割り当てで、色調補正を強めに出して人工物と自然物の区別を際だたせると、以下のようになります。
山間に走っている道路は、このような加工をしないと、どうしても見つけ出せません。

右上の都市部で、煙らしきものが明確に見えますが、これが工場の排気煙なのか、熱源による水蒸気なのかは私には判断できませんでした。

 

 


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