国立公文書館へのいざない


国立公文書館のおもいで

私が国立公文書館という施設をはじめて知ったのは、大学3年生の春、うららかで眠気を誘う食後の3限目のことでした。

3限目は、淡々と講義を進められる中世文学のH先生 。居眠り続出は必然…。

ところがその日、H先生は講義のはじめにこうおっしゃいました。

「良い天気ですねぇ…。今日は、お散歩しましょう。」

内堀通を永田町方面へ進み、イギリス大使館の手前、千鳥ヶ淵 交差点を左折して国立公文書館までのお散歩です。

 
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公文書館の前まで到着すると、H先生はおっしゃいました。

「ここには大変すばらしい本がたくさんある。それらの本は、君たちでも、閲覧することができる。卒論を書くときには、利用させて貰うと良いだろう。」

公文書館の中には入りませんでしたし、その「大変すばらしい本」の具体的なことは、あまり仰らなかったような気がします。

普通、「公文書館」という言葉でイメージされるのは

役所で作成され、証拠のために破棄するわけには行かないけども、常にその作成部署で持っている必要はないような文書を保存(もっと悪く言えば、死蔵?)しておくための暇そうな役所。

という風な、漠然としていて、何となくカビ臭く、湿気の多い場所のようなイメージだろうと思います。

まぁ、市民団体などが情報公開請求をかけて、役所での決定経緯を調べたりする時には利用しそうですが、普通の市民にも、文学研究にも、あんまり関係なさそう。

それと国文学科の学生の「卒論」に役立つような「大変すばらしい本」とは、どう繋がるんじゃ?

昔の大学の教育ってのは、頃合いを見計らって、ヒントをポンと置いておく。
興味を持って食いついたヤツ、気づいたヤツだけが得をする。
今すぐには分からないかもしれないけど、十年後にストンと腑に落ちるヤツもいるだろう。
それで良いのだ…という方式が多かったように思います。

国立公文書館にある「すばらしい本」

さて、大学院の2年生の時、修士論文を書く準備のために、国立公文書館へ「すばらしい本」を閲覧しに行きました。その蔵書群を「内閣文庫本」と言います。

身分証明書さえ出して閲覧申請をすれば、江戸時代の本の現物を触って良い訳です。

(但し、国民の共有財産である文化財を触るわけですので、事前に、正しい本の扱い方をご自分の指導の先生に習ってから行くのが良いでしょう。ボールペンや消しゴムは禁止とか、手洗いのこととか…。リンボウ先生が書いていないようだったら、時間の余裕があるときに私が書きます。)

で出納して頂いた本を一ページずつ捲って中身を読み、また、複写申請(コピーではなく、写真撮影なのでこれはとても高価です。)をしたり…。

内閣文庫本には、 紅葉山文庫本(もみじやまぶんこぼん)と言う、江戸城内で保管されていた将軍の本の一群があり、そのほか、昌平坂学問所の旧蔵書もかなり入っています。

昌平坂学問所の旧蔵書には、林羅山や林述斎、林復斎の書き入れ本も結構あるようです。

なお、紅葉山文庫本については、福井保著『紅葉山文庫―江戸幕府の参考図書館』(郷学舎 1980/08)がその歴史的変遷を丁寧に説明していてオススメです。あまり著名な版元ではないですが、今ならまだ古本屋で850円くらいで入手できるはず。書誌学徒必備の良書。
森潤三郎著『紅葉山文庫と書物奉行』(複製版 臨川書店 1978/02)も名著です。


2007年10月の特別展は「漢籍」です。入場料は無料。

宋版、元版、明版など、印刷文化史上、大変重要な書籍が50種類以上もまとめて展示されます。

中国では既に散逸してしまい、今、ここにあるものが唯一の原本ですよ、って本もかなりあるんです。
その結果、重要文化財に指定されている本が山盛りで陳列されるということになるわけです。

期間:平成19年10月2日(火)~10月21日(日)(特別展は、期間中無休)
時間:月~水・土・日曜日 午前9時45分~午後5時30分
木・金曜日 午前9時45分~午後8時
※入場は、それぞれ閉館30分前まで
主な展示物1主な展示物2

[主な展示資料] みどころ

『全相平話』(重要文化財)
元の至治年間に刊行され、中国講史類として現存する最古のものといわれる三国志平話。全相とは、全頁が絵入りだよ、という意味。国立公文書館だけが持つ、天下の孤本。

『廬山記』(重要文化財)
北宋の陳舜兪が、劉渙とともに廬山を遊覧した後、自らの見聞と劉渙の記録に基づいて記した廬山の案内書。南宋の刊本。廬山は白居易が愛した香炉峰のある所。陶淵明の墓もある。

『東坡集』(重要文化財)
北宋の文豪、蘇軾の詩文を収めたもの。南宋に刊行された『東坡集』としては、現存最古の版本。

『潁浜先生大全文集』(重要文化財)
北宋の文豪で、蘇軾の弟にあたる蘇轍の詩文集。南宋刊本は、国立公文書館だけが持っている。

・『豫章先生文集』(重要文化財)
北宋の詩人、黄庭堅(号は、山谷)の詩文集。南宋の孝宗・光宗の二代の間に刊行された最初の刊本とされる大字本。

・『梅亭先生 四六標準』(重要文化財)
南宋の李劉の詩文を門人の羅蓬吉が編集した、南宋の刊本。同版本の存在は、確認されていない。

・『朱子語類』
朱子学を大成した南宋の朱子と門人との問答集。南宗の黎靖徳の編。「朝鮮本」とよばれる、朝鮮で刊行されたもの。

・『貞観政要』
後世に「貞観の治」と呼ばれる平和な時代を築いた唐の太宗と群臣たちとの政治論集。
唐の呉兢の著。慶長5年(1600年)、我が国で木活字によって刊行されたもの。
徳川家康は『貞観政要』を座右の書としていた。


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